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松陰  というわけで、みつからないように異国に逃げようじゃあないか。
重輔  ムリです!!
松陰  なんで?
重輔  この幕府の取り締まりが厳しい中、異国に船を出してくれる人なんているわけないです!
松陰  うん、そうだね。
重輔  それとも自分で船を漕いで海を渡るつもりですか?異国までどれだけかかると思ってるんですか?
松陰  さすがの私も船乗りにはなれんなぁ。
重輔  (半ば場あきれて)そうですよ。船もない、船乗りもいない、取り締まりは厳しい
    ・・・そんなご時世に一体どうやって異国まで行くおつもりですか?
松陰  フッ、相変わらず甘いなお前は。
重輔  え?
松陰  船ならあるじゃないか、船なら。
重輔  ・・・・・・何のことでしょう。
松陰  立派なでっかい船が一隻、すぐ近くの海に見えるじゃあないか。
重輔  ・・・。
松陰  お前には見えないのか?
重輔  ま、まさかとは思いますが先生・・・・・・。
松陰  お前には見えないのか?あの立派な黒船が?!
重輔  ・・・(半泣き)まさか先生。
松陰  そう!黒船に乗せてもらおうと思ってる。
重輔  絶対に無理です!!!!


2人の動きが止まる。
松陰はストップモーションのまま重輔だけにスポットライトが当たる。


重輔  いつもの松陰先生の冗談かと思ったのですが、先生は本気で黒船に乗り込むことを考えていました。
    思えば遊学中に下田にやってきたのも、すべて先生の中では綿密に練られた計画のうちだったのです。
    しかし、無謀だ・・・無謀すぎます。
    まあ、先生が無謀なことばかり考えるのはいつものことなのです。
    不可能を可能にする、無理でも押し通す、返品不可のものでも返品する、
    それが我等の吉田松陰先生です。それが良いときもあるのですが今回は・・・。
    


再び場面は戻る。
松陰はなにやら紙を取り出して重輔に懸命に説明している。


松陰  ・・・と、こんなかんじでだな、こうこっそり黒船に忍び込んで
    異国まで運んでもらおうってな訳だ。
重輔  ・・・無茶です。いくらなんでもそんな簡単に忍び込めるわけないですよ。
松陰  ここでおじけづいてどうする!
重輔  だってだって、やっぱり無理ですよ!黒船に忍び込んで異国に行こうなんて・・・
松陰  (すごい剣幕で)ムッ!待て重輔!!!
重輔  ・・・な、どうしたんですか先生。急に。
松陰  ・・・誰かが我々の作戦をこっそり聞いている!
重輔  まさか幕府の役人?!
松陰  落ち着け。ここでバレたら一間の終わりだ。
重輔  ・・・。(うなずく)
松陰  とりあえずこの近くに誰か潜んでないか、よく探そうじゃあないか。
重輔  ・・・わかりました、先生。


松陰と重輔、あたりをしのび足で探しはじめる。


松陰  いいか、重輔。あやしいヤツがいたらすぐにひっとらえるんだぞ。
重輔  わかりました、先生。


忍び足であたりを探し回る2人。
するといつの間にか、唐草模様の風呂敷マントにひょっとこ面と頭巾をかぶった
あからさまにあやしい男が上手から忍び足でやってくる。
その男はこっそりと下手へ去ろうとするが、3人は舞台真ん中でばったりとぶつかる。


3人  わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!


3人驚いて腰を抜かす。がすぐに松陰はその男を捕らえる。


松陰  やっぱりいたか、怪しいヤツめ!!
男   −−−−−−!!−−−−−!!(訳のわからない声を出す)
重輔  それにしてもあからさまに怪しい姿ですね。
松陰  ええい、我々の作戦を聞かれたからにはタダでは返さんぞ!!


男、必死に抵抗するが松陰にはがいじめにされ身動きが取れない。


松陰  ええい、この怪しいやつめ!!幕府の犬か?!正体を見せろ!



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